スラムと教育。- ケニア編④ –

無事、ナイバシャで撮影を終え、今日から二日間はナイロビのキベラスラムに場所を移した。

キベラスラムとはナイロビにある西アフリカ最大級のスラム街で、約200万人が生活していると言われている。
道はもちろん舗装されていないし、家なのか廃墟なのか店なのかわからないボロボロの建物が立ち並んでいる。
スラムと聞けば、北斗の拳のサザンクロスのような暴力が支配する街を想像するが、半分合っているし、半分間違っている。

4年前に初めてここに訪れた時は、スラムに足を踏み入れるということで、正直怖かった。
その際は、ライフルを携帯した民兵を2人雇ってスラムでの安全を確保した。
これだけ聞けば、サザンクロスと変わらないと思われるが、スラムは雑多で入り組んでいるので、素人が危険を察知するのは難しい。
そのため、抑止力のために民兵は必要だった。

スラムには悪い人もいるが、大半は一生懸命生きている人で溢れている。
人を騙したり、自分さえ良ければいいという人は少ないように感じる。

前回は実際スラムに住む人の家に家庭訪問を行った。
蹴れば傾きそうなボロボロの建物で、薄暗い廊下には座りこんで話している人や子供たちが自由に遊んでいる。
廊下を抜けてると、ドアもない仕切りだけの部屋があった。
中は6畳くらいでベッドが一つ。
もちろん、台所や風呂トイレなどはない。
その部屋にはなんと大人1人と9人の子供が住んでいる。
自分の子供だけではなく、亡くなった親戚などの子供が引き取られ大家族を成している。

けど、共通するのはみな悲壮感がないということ。
日本でこの環境だったら、確実にグレているだろうが、スラムの基本は助け合いで成り立っている。

また、4年前には産婦人科にも撮影に行っている。
陽気で明るい先生だったが、語ってくれたことは地獄。
まず、若年層の日銭稼ぎのための売春が横行しており、不本意な妊娠が多発している。
同時に、性病やエイズが蔓延して負の連鎖が始まる。
仕事もない10代の子に子供を育てられるわけもなく、産み落とされた子供はトイレに捨てられたり、路上に放置される。
それを野犬が食い荒らすという、まさに地獄。

実際、この病院の先生は実子以外に道で犬に襲われている赤子を道端で拾い育てている。
その子ももう物心付いており、「なんで私はお母さんと肌の色が違うの?」と聞かれ、本当のこと言うべきか悩んでいた。

ここにはモヒカンでヒャッハーみたいな輩がいるわけではないが、貧困が原因がゆえ、もっと複雑な問題がある。

そんなスラムの子供たちに希望の光を与えているのが、マゴソスクールである。
ここは勉強を教える学校でもあり、駆け込み寺的な役割も兼ねている。

貧困に対してお金で解決できることがほとんどだが、「働いてお金を稼ぐ」ということは、長期的に見た人生で大切な術になる。
そのため、年端も行かない子供たちに本当に必要なのは、「教育」という考えのもと設立された場所である。

貧富の差が激しい国に行ったことがある人ならわかると思うが、旅行をしていると物売りが寄り付く。
基本的には「あー、めんどくさい」だが、水など今必要なものなら稀に買うこともある。
大半は現地の土産物などを高額で売りつけてくるパターンが多い。
事情がわかるが、とてもいい仕事とは言えない。

大人が押し売りしてくる分には何も思わないが、小さい子供が物を売ってくると心が痛む。
仮にここで僕が全ての商品を買い占めてあげて、この子にお金が渡っても、味を占めて同じことを繰り返すだけで根本的な解決にならない。
何より、商品の質向上より「子供に売らせた方が売れるぞ!」というようなズル賢い戦略に苛立つ。
こんな物を売りつけられて相手がどんな思いをするか、ということは全く考えられていない。

話を戻すと、マゴソスクールは勉強が学べる場所ではあるが、同時に社会性も学べるということが大きいと思う。
集団生活の中で、勝手に身に付く当たり前のことは、その後の長い社会生活の中で最も重要な「自分の立ち振る舞い方」を覚えることになる。
「人の嫌がることをしない」「どうすれば人は自分の話を聞いてくれるか」「もっと友達と親しくなる方法」など、マニュアルがないものが自然と身に付く。
社会生活を噛み砕けば、人付き合いであり、ご近所から友達、同僚、上司部下、クライアントなど、態度や話し方次第で得をしたり、損をする場面が無数に存在する。

日本では当たり前のことでも、それは少なくとも9年は学校へ行って自然と身につけており、今考えれば学校とは勉強こそが建前で、社会性を学ぶ場だったんだなぁ、と気付く。

逆に勉強ができなくても、社会性さえあれば何とか生きていける。
専門学校に2回落ちた僕ものらりくらり元気に生きているので。

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